日本独自の伝統技術にフォーカスを当てたモノづくりを展開する「a IN U COLLECTION (エー イン ユー コレクション)」より、愛知県名古屋市有松で受け継がれる【有松絞り】を採用したアイテムを発売。今回採用した、日本の伝統的な染色技法である【有松絞り】の魅力について深掘りします。
【有松絞りとは】
有松絞りとは、江戸時代から受け継がれる、愛知県名古屋市の有松町・鳴海町地域でつくられる木綿絞りの総称。布をくくる「絞り技法」は今では100種以上存在し、職人から職人へと引き継がれ、研究が重ねられることにより現在も新たな絞り技法が増え続けています。染色加工や抜染加工、形状記憶加工など加工の種類や、使用する薬剤も多数の組み合わせがあり、使用する生地によっても、無限の模様を描き出します。
【有松絞りの歴史】
日本の絞り染めは遠く、奈良時代までさかのぼり、中央アジアからシルクロードを越え、海を渡ってきました。鹿ノ子絞りの原形がそれであるといわれています。その後、幾多の技術革新・開発研究がくりかえされ、江戸時代の有松でその全容がほぼ出揃ったとされています。
(写真)久野染工場にて展示されている伝統工芸士の写真と、絞り機開発の歴史
有松町史によれば、1610年名古屋城築城の頃、築城に参集していた人々の中に九州豊後(大分県)の者が絞り染めの珍しい手ぬぐいを持参していることに気をとめた、竹田庄九郎がその製法のヒントを得たと言い伝えられています。その頃より手法は研究され、はじめのうちは手ぬぐいに絞り染めをし、軒先に吊るして販売を開始。やがて参勤交代の制が確立したこともあり、旅人や諸国大名が帰国する際に有松に立ち寄り、土産物として絞の反物や手ぬぐいを買い求めたのが有松を有名にした始めといわれています。
(写真)久野染工場にて保管されている有松絞りのレシピ資料
【今回採用した有松絞り技法の一つ「クラッシュ絞り」について】
今回のa IN U COLLECTION -ARIMATSU-で採用した絞り技法「クラッシュ絞り」と「鳴門絞り」について少し詳しくご紹介していきます。
<左>取締役専務 久野浩彬氏 <右>企画 新井達也氏
お二人に有松絞りについて伺ってきました。
「クラッシュ絞り」
1990年代に開発された絞りで、ぐしゅぐしゅっとしたシワがアパレルの商品に落とし込んだ時に綺麗で、最初は形状記憶加工で多く使われる絞りでした。当時クラッシュ絞りを染色加工で使うことがなく、絞った際の形状上、生地全体を染めることができないでいました。そこから開発研究を重ね、成形した際に楕円型にまとめることで完成したのがクラッシュ絞りとなります。
「クラッシュ絞りの工程」
①成形(仮どめ・本締め)
左から順に、手作業と職人の感覚で生地を絞る工程です。この工程で商品の模様が変わります。
②湯漬け
生地の中にある空気を抜く工程。この後に続く抜染工程を綺麗に行うための大事なひと技です。
③抜染
色素を抜く、模様が出来上がる工程。職人技により商品に合わせた抜染方法を選び、製作いただきました。
④糸抜き
絞り技法の中で特徴的な工程の一つ。一つひとつ丁寧に固く細かく施された絞りを解いていきます。
⑤ソーピング
洗いの工程。この工程を丁寧に行うことで、クラッシュ絞りの模様が綺麗に出てきます。
【今回採用した有松絞り技法の一つ「鳴⾨絞り」について】
「鳴門絞り」
江戸時代から続く「板締め絞り」から派生し開発された絞り。板締め絞りは、板を折る方法や生地の折り方など組み合わせが豊富に存在し、多くの柄を生み出してきていました。最終的に「鳴門絞り」に行き着いたのは、今回本コレクションの担当者、企画の新井さんが主となり開発された絞りとなります。
「鳴門絞りができたきっかけ」
研究を始めたきっかけは、元々浴衣を絞ることが多かった絞りの技法のため、アパレル企業から依頼をされる、絞りを施す生地の「幅」が大きく違ったことがきっかけとなります。絞りを施す浴衣の生地幅はだいたい37cm〜40cmほどとなり、アパレルからの生地幅110cm〜120cm幅となるそう。幅の違いにより、手作業や機械で可能な方法を研究し、たどり着いたのが今回の鳴門絞り。また、絞りを施す生地によっても柄のニュアンスが変わります。
「鳴門絞りの工程」
①絵刷、成形
伝統的な和紙に柿渋を塗り込んだ、絞りのデザインを記す型。現在ではプラスチックを用いて作られています。
(右)絵刷りにてデザインが描かれた生地を蛇腹に折りたたむ工程。
③糸で巻き付け
絞りの工程です。きつく固く職人の長年の感覚によって糸で絞る工程です。糸で絞られた部分が濃いインディゴとして色を残します。
④湯漬け、抜染
クラッシュ加工同様で、生地の空気を抜き抜染していきます。
⑤抜糸、ソーピング、乾燥
絞りの糸を外し、丁寧に洗いと乾燥を行いできあがります。
伝統技術として受け継がれてきた「有松絞り」。その無限にある絞りの中から採用した絞り技法、そして生地や染色、薬剤、その日の気候や温度によって生まれた、その時でしか作ることのできない貴重な商品です。ぜひお手に取ってご覧いただけますと嬉しいです。
「有限会社 絞染色 久野染工場」久野染工場では、代々受け継がれてきた有松絞りの伝統技法を生かしながら新しい表現にチャレンジし、ファッションだけではなくインテリア・アートなどのジャンルにも幅広く進出。これまで、国内外で幅広く活躍されている数多くのブランドに生地開発しています。
(写真)<右>取締役専務 久野浩彬氏 <左>企画 新井達也氏
【最後に】
今回のa IN U コレクション-有松絞り-を制作、また撮影・取材のご協力をいただきました。脈々と受け継がれた伝統を大切にしながら、日々研究と開発を繰り返し、その技術で多くの商品を制作し続けている久野染工場さま。本コレクションの制作にあたり、ご尽力をいただきましたこと、ありがとうございます。